帰国時の出国税の免除に関して(2023年4月13日公表の最高税務裁判所判決)
2023年4月13日公表の最高税務裁判所判決(2022年12月21日付(IR 55/19)によると、「一時的な不在」による出国税の免除は、納税者がドイツを離れてから5年以内に再び無制限の所得税の課税対象となる場合、当初から戻る意思があったかどうかにかかわらず、認められなければならないとしている。
背景
外国税法(FTA)Section 6(1)によると、納税者(原告)がドイツの居所/常用の住居を離れることで無制限の納税義務が消滅する場合、私有財産として保有する一定の株式は、(売却しなくても)処分されたものとみなされ、ITA(所得税法) Section 17(1)により、みなし処分に係るキャピタルゲインが課税される。FTA Section 6(3)では、このいわゆる出国税について、一定の状況下で、その後免除されることを規定している。
原告は、2014年3月にアラブ首長国連邦のドバイに移住し、ドイツ国内の住所地・常用の居所を離れていた。移転当時、原告は、複数のドイツ居住法人の持分を保有していた。2015年12月、原告は税務署にドイツに戻る意向を伝えた。移転から2年後、原告はドイツに再度常用の居所を移した。
原告の出国年(2014年)の所得税調査において、税務署は、FTA Section6(1)に基づき、ITA Section 17によりキャピタルゲインを認定した。これに対し、原告は、最終的にドイツに帰国することから、遡及して課税を免除する必要があると主張し、異議を申し立てた。税務署は、原告が出国時に帰国する意思を明確にしていなかったという理由でこれに同意しなかった。
ミュンスター租税裁判所(第一審)判決
納税者が当初から出国後5年以内に再びドイツの無制限納税義務者になる意思を持っていたことを証明できなかったなどとして、原告の訴えを退けた。
最高税務裁判所判決
最高税務裁判所は、以下のとおり、原告を支持する判決を下した。
原告の保有する株式の含み益をキャピタルゲインとして課税することに十分な法的根拠がなく、正当化されないというべきである(条文上、単に「一時的な不在」とあるだけ)。
税務当局の見解では、FTA Section 6(3)は、納税者が出国時にすでに帰国する意思を持ち、それが合理的に立証されていなければならないとしている。しかしながら、最高税務裁判所は、出国後5年という法的に定められた期間内に納税者が再び無制限の課税を受けるようになれば、「一時的な不在にすぎない」という要件が満たされる(ドイツへの帰国の意思は、出国時に確定している必要はない)、と判示した。
最高税務裁判所は、FTA Section 6(3)の文言は、納税者が帰国の意思をいつまでに立証しなければならないのか、あるいはそもそもそれを立証する必要があるのかを示していないとした(一方、FTA Section 6(3)第2センテンスでは、「帰国する意思が変わらない」ことが立証された場合、当初の5年間の期間を延長できる旨を規定している)。したがって、(出国後の)当初5年間は、税務当局への届出やドイツへの住所地移転などにより、いつでも復帰の意思を示すことが可能である。
(注) 日本では、2015(平成27)年度税制改正により、国外転出時課税制度が創設されている。国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなること)をする一定の居住者が1億円以上の有価証券等を有しているなどの場合には、その含み益に所得税等が課される。国外転出時課税の申告をした納税者が、国外転出日から5年以内(納税猶予の特例の適用を受ける場合は10年以内)に帰国した場合、例えば帰国時まで引き続き有している有価証券等については、国外転出時課税の適用がなかったものとして、課税の取消しをすることができる(帰国日から4か月以内に更正の請求をする必要がある)。
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/journal/tax-wwts-june-2023.html
本稿は、国際税務研究会発行の「月刊 国際税務」2023年6月号収録 「Worldwide Tax Summary」記事となります。
(PwC税理士法人編・PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修)