欧州財務相会合で暗号資産を中心とする新たな報告・情報交換ルールを採択(DAC8)

2023年5月16日、欧州経済財務相理事会(ECOFIN)の月例会議の一環としての財務相会合で、租税分野における執行協力に関する指令の改正案について合意がなされた。同指令の改正(DAC8)は、原則として、わずかな例外を除き、2025年12月31日までにEU加盟国の法令に導入され、2026年1月1日から適用されるものとされている。暗号資産の報告制度が中核となる一方、本指令にはDAC1~7を強化・拡大する措置も含まれている。なお、ペナルティーの下限を規定する提案は合意されていない。最終的な法律確認を受け、欧州議会がこの提案に対する意見を提示すれば、本指令が正式に採択される可能性がある。

概要 - 指令の妥協案としての合意文書により、OECDの暗号資産報告フレームワーク(CARF)を欧州連合(EU)に導入することになる。本指令は、EU域内で暗号通貨の取引を行うすべての暗号資産サービスプロバイダー(暗号資産取引所やウォレットプロバイダーなど)に対して、新たな顧客に係るデューデリジェンスと報告要件を課している。また、本指令は、納税者の識別手続きやデータの使用/保持の強化についても規定している。さらに、a)自然人に付与される特定のルーリング、b)ノン・カストディアル配当(non-custodial dividends)所得に関する情報、に係る自動交換の根拠を定めている。DAC違反に対するペナルティーの下限については合意に至らなかったため、規定されていない。なお、本文書には、CJEU(欧州連合司法裁判所)判決(Orde van Vlaamse Balies e.a. <C-694/20>)に伴うDAC6の改正が含まれている。

DAC8によるCARFの実施 - CARFは、共通報告基準(CRS)と同様の方法で、暗号資産取引に関する情報の収集と交換を確実に行うことを目的としている。CARFは、CRSの自己証明ベースの要件と、金融活動作業部会(FATF)の2012年勧告に基づく既存のマネーロンダリング防止(AML)/顧客本人確認(KYC)義務に基づいて構築されている。DAC8は、新しいデジタルマネー商品と従来の銀行口座やその他のCRS報告対象口座との間の公平な競争条件を確保するために、CRSの範囲内に新しいデジタル金融商品を導入し、CRSを更新する。また、以下の修正により、既存の報告枠組みの機能性を向上させることを目的としている。

I. 報告要件:新たに報告可能なデータ要素を導入する。

II. デューデリジェンス要件:AML/KYCルールは、FATF2012年勧告により適合している。

III. 既存の定義に関するコメンタリー/明確化:既存の報告義務の範囲を修正する。

IV. CBI/RBIガイダンス:高リスクのCitizenship and Residence By Investment(CBI/RBI)スキームを特定する。

DAC8は、EUの暗号資産市場規制(「MiCA規制」 - 同じECOFIN会議で採択)および資金移動規制(TFR)を基礎としている。DAC8は、MiCAが規制する暗号資産を幅広くカバーしているが、ステーブルコイン、電子マネートークン、特定の非代替性トークン(NFT)などの暗号資産にも適用される。支払いまたは投資目的で使用できる暗号資産は、DAC8で報告対象となる。暗号資産の使用と目的に関連する特定の事実と状況は、報告の対象となるかどうかを判断するために、ケースバイケースで評価する必要がある。

特定の自然人に対するクロスボーダールーリングに係る情報交換 - クロスボーダーの事前ルーリングについては、以下のいずれかの場合に、自動的な情報交換の仕組みが提供されている。

(a)取引または一連の取引の額が1,500,000ユーロ(または他の通貨での相当額)を超える場合で、その額がルーリングで言及されている。

(b)そのルーリングを発出した加盟国の税務上の居住者であるか否かを独自に決定する。

上述は、2026年1月1日後に発出、修正、更新されるルーリングに適用される。非居住者の給与、役員報酬、年金所得の源泉地課税に係るルーリングは、交換しないものとする。

ノン・カストディアル配当に関する自動的情報交換 - 脱税、租税回避、租税不正に係る抜け穴を塞ぐため、EU加盟国はノン・カストディアル配当所得に関連する情報を交換することが義務付けられる。

DAC6の修正 - DAC8では、CJEU 判決(Orde van Vlaamse Balies e.a. <C-694/20>)を受け、DAC6 を改正する。これにより、DAC6の規定では、仲介者として行動する弁護士が、法律専門家特権を理由に報告義務を免除される場合、その報告義務を、クライアントではない他の仲介者に通知することは求められない。ただし、当該弁護士は、遅滞なく、その報告義務をクライアントに通知する必要がある。

その他の執行規定 - 各EU加盟国は、給与、役員報酬および年金所得、クロスボーダーの事前ルーリングおよび事前確認(APA)、国別報告、報告対象DAC6クロスボーダー取決めに関して、居住地のEU加盟国が発行する個人および事業体の納税者番号(TIN)の報告を義務付けるために必要な措置をとることになる。DACの下で交換される情報の潜在的な用途は、例えば、関税やマネーロンダリング防止の目的など、明確にされている。加盟国は、交換した情報の保存に関する規定を定める必要があるが、一般的には、最低5年間が適用される。

DAC8の迅速な採択により、欧州連合(EU)はこの分野で先行することになる。本改正は、現在EU加盟各国全体で広く適用されているDAC7(特定のデジタルプラットフォームに対する報告義務)の合意に続くものである。米国内国歳入庁は、デジタル資産の情報報告を義務付ける法律を実施するため、IRC Section 6045に基づく規制を準備しているが、本規制のスケジュールは延期される可能性がある。米国の規制は、CARFに類似したものになると予想される。なお、DAC8の改正を適用する際、加盟各国はOECDのCARF提案と一貫したアプローチを遵守しなければならない。

https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/journal/tax-wwts-july-2023.html

本稿は、国際税務研究会発行の「月刊 国際税務」2023年7月号収録 「Worldwide Tax Summary」記事となります。
(PwC税理士法人編・PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修)


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